WEBサイト運用に潜む構造的な課題と、今見直すべき体制・プロセス

WEBサイト運用に潜む構造的な課題と、今見直すべき体制・プロセス

企業のWEBサイトは、日々の更新や情報掲載だけでなく、採用や営業活動、顧客との接点など、さまざまな業務を支える役割を担うようになりました。その一方で、運用の仕組みや責任分担が曖昧なまま続いていたり、担当者の交代によって重要なルールが引き継がれていなかったりと、見えにくい課題を抱えている企業も少なくありません。本記事では、現場で起こりやすいこうした構造的な問題を整理し、より安心して運用できる体制づくりのポイントを、実務の目線から解説します。

なぜ構造的な問題は放置されやすいのか

企業のWEB運用では、日々の更新作業や依頼対応が優先され、全体の仕組みやルールづくりは後回しになりがちです。担当者は「今日アップすべき情報」「期限がせまったページ修正」に追われ、長期的な改善に時間を割くのが難しい状況がよくあります。また、担当者の交代や外部企業との分業が多い環境では、過去の経緯が共有されないまま運用が続き、「なぜ今このルールなのか」「誰が最終判断すべきなのか」が不透明になることもしばしばです。

さらに、WEBサイトは見た目が大きく変わらない限り、一見“問題なく動いているように見える”ため、裏側の課題に気づきにくいという特徴があります。CMSやプラグインの更新が滞っていても、今日の業務に差し支えなければ優先度が下がり、気づけば技術的な負債が積み上がっているというケースも珍しくありません。

こうした積み重ねにより、表面上は平穏に見えても、内部ではリスクが蓄積している状態が生まれます。誰が悪い訳でもなく、業務の特性として“気づきにくい”“後回しにしやすい”という構造を持っているのが、企業のWEB運用なのだといえます。

WEBサイト運用に潜む構造的課題とは何か

日々の更新業務では見えにくいものの、多くの企業で共通して見られる課題があります。いずれも運用体制の中で、気づかないうちに生まれやすくなるものです。

(1)ガバナンス体制が曖昧になりやすい

WEBサイトに関する判断や更新の管理が、複数の部署に分散したまま整理されていないケースは少なくありません。広報、営業、採用など、それぞれの立場で情報を発信する必要があるため更新窓口が増え、組織の規模が大きくなるほど管理や意思決定が複雑になりやすい傾向があります。

その結果、「誰が最終判断を担うのか」が見えにくくなり、掲載基準や表現が部署ごとに異なったり、確認の手戻りが発生したりすることがあります。逆に管理責任者が不明確なまま運用が続き、必要な更新が止まってしまうケースも見られます。

こうした課題は、WEBサイトが複数部署にまたがる企業資産であるにもかかわらず、判断基準や権限が明文化されにくいことが背景にあります。まずは「どこが何を担っているのか」を共有するだけでも、運用の迷いやトラブルの防止につながります。

(2)情報管理のプロセスが統一されていない

WEBサイトの運用に必要な情報が、どこで管理されているのかが明確でないケースも少なくありません。掲載原稿や画像素材だけでなく、サーバーやドメインの契約情報、Googleアカウント、アクセス解析の権限設定などが部署や担当者ごとに保管されていることもあり、「どれが最新なのか」「どこにあるのか」が分からなくなることがあります。

特に、担当者が異動・退職したり、管理を外部パートナーに任せていたりする場合、必要な情報が共有されないまま運用が続き、後になって「ログインできない」「契約更新の通知が誰にも届いていなかった」といったトラブルにつながることもあります。

こうした状況は、WEB運用に関わる情報が多岐にわたるにもかかわらず、全体を一元管理する仕組みが用意されていないことが背景にあります。

情報管理のルールや台帳が整っていれば、更新漏れや重複を防げるだけでなく、担当者間の引き継ぎや外部委託時のトラブルも大幅に減らすことができます。「どの情報が、誰の責任で、どこに保存されているか」を整理することは、運用効率を高めるだけでなく、企業としてのリスク管理にもつながる重要なプロセスです。

(3)技術面の改善が後回しになりやすい

WEBサイトは普段何事もなく動いているように見えても、その裏側にはソフトウェアやプログラムがいくつも組み合わさっています。ところが、これらを長く使い続けると、家具や家電と同じように“古くなる”ことがあります。見た目には問題がなくても、動作が不安定になったり、最新の環境に合わなくなったりすることがあるためです。

特に、WordPressのテーマやプラグインなどは、更新されないまま使用し続けると「セキュリティの脆弱性が見つかっても修正されない」という状態になることもあります。CMSやPHPの「サポート期限」というのも、メーカーや開発元が修正や改善を行ってくれる期間のことで、それを過ぎると不具合が見つかっても直してもらえなくなってしまいます。家電で例えるなら「修理受付が終了してしまった型番」のようなイメージです。

こうした技術的な部分は、普段の更新作業では目に触れないため後回しになりやすく、担当者が変わったタイミングや突然のトラブルで初めて問題に気づくこともあります。ただし、すぐに大きな対応が必要ということではなく、まずは「今どのような仕組みで動いているのか」を整理するだけでも、トラブルの予防や改善の計画が立てやすくなります。裏側の状態が整っているサイトほど、日々の運用が安定し、余計な修正対応に追われる時間が減っていきます。

(4)セキュリティ・法令対応の判断が止まりやすい

WEBサイトで扱うデータやCookieの取り扱い、プライバシーポリシーの更新などは、企業として対応が必要な項目でありながら、誰が判断すべきかが分かりにくい領域です。技術面だけでなく法務や経営判断も関わるため、担当部署がひとつに絞られず、「どこが主導すべきか」が曖昧になりやすいという背景があります。その結果、必要と分かっていながら対応が進まなかったり、各部署の判断に委ねられてしまったりすることがあります。

たとえば、プライバシーポリシーは法令やガイドラインの変更とともに見直しが必要ですが、「どの内容を誰が確認するのか」が明確でない場合、後回しになりがちです。アクセス解析やフォームに関する設定も同様で、WEB担当者だけでは判断が難しく、かといって法務部門も技術的な判断までは踏み込めない、といった状況が起きることも珍しくありません。

これらは、セキュリティと法令対応が“技術”と“社内コンプライアンス”の間に位置しているために、責任範囲が整理されにくいことが原因です。対応を進めるために重要なのは、すべての項目を一度に完璧にすることではなく、「何について、どの部署が確認を行うのか」を共有しておくことです。これだけでも判断の停滞が減り、必要な対応を確実に進めやすくなります。

【①ガバナンス編】責任の所在を明確にする

WEBサイトの運用では、日々の更新やトラブル対応が優先される中で、「誰が何を判断するのか」という根本的な役割分担が曖昧になりやすい傾向があります。特に、広報・マーケティング・IT・法務・営業部門など、さまざまな部署が情報提供や確認に関わる企業では、どの内容を誰が承認すべきなのかが共有されていないまま運用が続き、気づけば“なんとなく”で判断している領域が増えてしまうことがあります。

ガバナンスとは、こうした曖昧さを解消し、関係者が安心して判断・協力できるようにするための土台づくりです。細かいルールを増やすことではなく、「何を誰が見て、どう進めればいいのか」を明確にしておくことで、無用な手戻りや迷いを減らし、結果として現場の負担を軽くする仕組みとも言えます。

たとえば、ガバナンスが整っていると以下のような点で運用がスムーズになります。

・新しいサービスページを追加する際、最終判断者が明確なため相談の流れが速くなる
・法令対応や表記統一など、全社で守るべき方針が文書化されており、担当者同士の認識のズレが起きない
・外部パートナーとの制作でも品質基準が共有されているため、齟齬や修正の手戻りが減る
・トラブル発生時に「誰が状況を把握し、誰が対応を決めるか」が明確なため混乱が起きにくい

さらに、ガバナンスは単に責任の所在を決めるだけでなく、各部署が協力しやすい状態をつくる役割も担います。
WEBサイトの質や鮮度を高めるには、営業部門からの市場情報、製品部門からの技術情報、法務からのチェック、マーケティング視点での整理など、専門部署との連携が欠かせません。判断基準が共有されていると、関係者が「どこまで対応すればよいか」「誰に相談すればよいか」が明確になり、協力がスムーズになります。

まず最初に取り組むべきは、「サイトオーナー(最終責任を持つ立場)」と「運用上の判断者」を明確にすることです。一度決めてしまえば、日々の判断が軽くなり、社内外とのコミュニケーションもスムーズになります。結果として、関係部署が参加しやすくなり、情報の質やスピードも自然と向上していきます。

ガバナンスは、現場を縛るためのものではありません。むしろ担当者が迷わず動けるようにし、必要な協力が得られるようにするための“安心して運用できる仕組み”です。体制が整っているほど、担当者は余計な判断に悩まずに済み、企業としても安定した運用が実現できます。

【② 情報管理編】管理情報の所在を“見える化”

WEBサイトの運用では、必要な情報が社内外の複数の関係者に分散したまま整理されておらず、「どこに何があるのか」が分かりにくくなることがあります。これは珍しいことではなく、サイトの更新に関わる人が広報、営業、採用、製品部門だけでなく、制作会社やサーバー管理会社など外部パートナーにも広がるため、管理情報が自然に散らばりやすい構造が背景にあります。

実際には、次のような情報が行方不明になりやすい例として挙げられます。

・サーバーやドメインの契約情報/ログイン情報が元担当者のメールにしかない
・GoogleアナリティクスやSearch Consoleの管理権限を持っている人が誰か分からない
・公式ロゴや写真素材の最新版がどのフォルダかわからない
・過去の制作データ(PSD/AI)が外部制作会社にしか残っていない

こうした状況はWEB運用に関わる情報が「社内の誰か」「外部の誰か」の頭の中やメールにとどまりやすいという構造によって起こります。そして、担当者交代や外部委託先の変更があったタイミングで、情報が追いづらくなることがよくあります。

重要なのは、「すべてを一か所に集めること」ではなく、“どの情報が、どこにあり、誰が管理しているかが分かる状態”にしておくことです。

対応策としては次のような小さな取り組みから始められます。

・管理すべき情報の一覧(管理台帳)を作る
保存場所と責任者を明確にする(Google Drive/SharePoint/Notion など)
・退職・異動・外部委託先変更の際は「引き継ぎチェックリスト」を使う
・権限設定を“人ベース”ではなく“役割ベース”に切り替える
※「◯◯さんが管理者」ではなく「WEB運用担当者グループが管理者」にする

情報の所在が見える化されていると、更新漏れや作業停滞を防げるだけでなく、「担当者が探す時間」が減り、本来の運用業務や改善業務へ集中できるようになります。結果として、サイト全体の品質や情報鮮度も自然に高まっていきます。

技術基盤編:技術負債を正しく管理する

WEBサイトの運用は、表に見えるコンテンツだけでは成立しません。
その裏側には、CMS(WordPressなど)、テーマやプラグイン、サーバー、SSL、ドメインといった多くの技術要素が支えています。ところが、これらは“普段は問題なく動いてしまう”ため、つい優先度が下がり、気づかないうちに代償が蓄積していくことがあります。

いわゆる「技術負債」と呼ばれるものですが、企業サイトでは特に次のようなケースがよく見られます。

CMSやプラグインが数年更新されていない
・古いテーマの制約で編集がしづらい
PHPのサポートが終了している
・ステージング環境がなく、本番で直接作業している
・サーバー・SSL・ドメインの管理者が複数部署に分散している

こうした状態は、普段の業務では大きな支障を感じにくいものの、いざというときに影響が表面化しやすい領域です。
ページの更新が不安定になる、想定外のエラーが起こる、脆弱性を狙われるリスクが高まるなど、目に見える形で“運用しづらさ”として跳ね返ってきます。

とはいえ、「すぐに大規模な改善を」と考える必要はなく、まずは現状を把握することからで十分です。
たとえば、次のような整理を一度行うだけでも、運用の透明度はぐっと高まります。

・現在利用しているテーマ・プラグイン・バージョンの一覧化
サーバー契約、SSL更新、ドメイン管理の担当者と更新時期の明確化
・更新時のテスト方法(ステージングの有無)の確認
セキュリティに関わる項目の棚卸し(管理画面の権限、バックアップ体制など)

この“棚卸し”は、一度やるだけで課題がすべて解決するわけではありませんが、今どこに負担があり、どこがリスクになりそうかを把握できるという点で、とても効果があります。

技術基盤を整えることは、見た目の改善よりも地味に感じるかもしれません。しかし、裏側が安定しているサイトほど、更新もしやすく、余計なトラブル対応に時間を取られません。
長期的に見れば、担当者の負荷軽減にもつながり、運用効率が大きく変わっていく領域でもあります。

セキュリティ・法令順守編:後回しにできない“必須対応”

WEBサイトのセキュリティや個人情報保護は、重要性を理解していても、日々の業務の中ではどうしても後回しになりやすい領域です。見た目のデザインやコンテンツ更新と違い、直接目に触れるものではないため、優先度を上げにくいという事情もあります。

しかし、データ活用やCookieの扱いが当たり前になった今、企業の信頼性は「どれだけ誠実に情報を扱っているか」によって大きく左右されます。特にPDPAやGDPRなど、国をまたぐビジネスを行う企業にとっては、知らないうちにリスクが積み上がっているケースも少なくありません。

よくある“気づきにくい”課題

・Cookieバナーが付いていても、実態に合った動作になっていない
・GA4/GTMの設定に齟齬があり、意図せず個人情報と紐付く可能性がある
・プライバシーポリシーの更新が数年止まっている
・フォームにPDPA/GDPR相当の表記がない(同意文言・目的の明確化が不足)
・外部サービス(チャット、地図、フォーム、CDNなど)に関するデータの扱いが未整理

これらは「問題が起きてから気づく」ことが多い領域で、誰かが悪いのではなく、“気づきにくさ”が構造的に存在しています。

まず取り組みたいのは、現状把握と“必要最低限の整理”

大掛かりな仕組みを一度に導入する必要はありませんが、次のような整理をしておくだけでもリスクは大幅に減ります。

Cookie/アクセス解析の仕組みが実態に合っているか確認する
→ Consent Management のON/OFFが機能しているか

・プライバシーポリシーを定期的に見直す
→ 法改正やサービス内容に合わせてアップデートする

フォームの同意文言と取得データを整理する
→ 目的・保存期間・第三者提供の有無など

外部ツールのデータ取り扱いを把握する
→ どのサービスがどの情報を扱うかを可視化する

権限管理やパスワード運用など、基本要件を整える
→ 管理画面のアクセス権限、2FAの設定、パスワード共有の禁止など

どれも“難しい専門知識が必要”というより、一度整理しておけば運用がラクになる項目です。

法令順守は「企業のかたさ」を出すためではなく、利用者との信頼を守るための取り組み

セキュリティや法令対応は、形式的な対応に見えがちですが、実際には利用者が安心してサービスを利用できるかどうかに直結する部分です。
特にPDPA対象国で事業を展開する企業にとっては、“最低限どこまでやっておくべきか”を明確にしておくことが、結果的にブランドの信頼性を高めることにつながります。

無理なくできるところから整えるだけでも、運用は格段に安定し、トラブル対応に追われる時間も減らせます。

まとめ

WEBサイトの運用は、見える部分以上に多くの人や仕組みが関わり、全体のバランスの上に成り立っています。
だからこそ、日々の更新に追われていると、気づかないうちに課題や負担が蓄積してしまうことがあります。

本記事で扱った「構造的な課題」「ガバナンス」「情報管理」「技術基盤」「セキュリティ・法令順守」は、どれも派手ではありませんが、運用の安定性や、社内外からの信頼に直結する領域です。
そして、多くの場合、大きな改革をしなくても、最初の一歩は“現状を整理すること”から始められます。

・誰がどの判断を担当するのか
・どの情報がどこで管理されているのか
・どの技術が現在の運用を支えているのか
・どの法令が影響し、どんな対応をしているのか

こうした基礎的な部分が少しクリアになるだけで、更新の迷いが減り、ミスやトラブルが起こりにくくなり、担当者の負荷も軽くなっていきます。

WEB運用を“誰か一人の努力”で支えるのではなく、“仕組みで支える”方向へ少しずつ移行する。
その積み重ねが、企業にとっての安心感にも、サイトの品質向上にもつながるはずです。

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