2026.02.23
タイ市場で「メイド・イン・ジャパン」を強みに変えるには〜評価の変化から考える伝え方の設計〜
タイ市場では、日本製品に対する評価は今も比較的高く、品質や耐久性といったイメージが広く共有されているように見受けられます。実際、信頼できる製品として日本企業のブランドの名前が挙がる場面も少なくありません。
ただ現場での手応えを見る限り、その印象だけで選ばれる場面は以前より少しずつ減ってきているようにも感じます。複数の選択肢を比較したうえで判断されることが当たり前になり、ブランド名だけで決まるケースは限られてきている印象です。
そうした変化を踏まえて見ていくと、「日本製と書いておけば信頼される」という前提を見直す必要が出てきているのも事実です。
同じ日本ブランドでも成果に差が出ることがあるのはなぜなのか。そこには単なる見せ方の違いでは説明しきれない、設計段階での違いがあるのかもしれません。
日本品質の優位性を前提としたうえで、それをタイ市場でどのように訴求すれば選択理由として機能するのか、その視点を整理してみたいと思います。
日本ブランドの現在地 -「特別」から「比較対象」へ-
これまでのタイ市場では、日本ブランドは数ある選択肢の中でも、最初から信頼できる存在として受け止められることが多かったように感じます。品質の高さ、耐久性、安全性。そうした印象が広く共有されていたため、日本製というだけで一定の信頼を得られる場面も少なくありませんでした。
ただ、ここ数年の現場感覚としては、その位置づけに少しずつ変化が見られるようになっています。日本ブランドへの評価自体が下がったというよりも、選ばれ方のプロセスが変わってきている印象です。
背景には、まず市場に並ぶ選択肢そのものが増えてきたことが要因の一つとして上げられると考えます。とくに近年では中国や韓国など海外ブランドの参入が進み、以前よりも比較対象が増えたことで、タイのユーザーは複数の候補を前提に検討するようになってきたと言えます。
こうした変化の裏側には、いくつかの構造的な要因が重なっていると考えられます。
製造技術の世界的な底上げによって品質差が縮まり、物流や流通網の整備によって海外製品でも入手しやすくなりました。さらに、デジタル販売を前提としたブランドが増えたことで、現地に拠点を持たない企業でも市場参入がしやすくなってきたことも考えられます。
その結果として、タイのユーザーの目に触れる選択肢の数そのものが増え、「どれが一番良いか」を比較して決める行動が以前より自然なものになってきていると言えます。
以前であれば「日本製だから安心」と受け止められていた場面でも、今は「他と比べてどう違うのか」を確認されることが増えています。特別扱いされなくなったというよりも、他ブランドと同じ土俵で比較されるようになった、という表現のほうが近いかもしれません。
一方で、こうした変化は日本企業にとって必ずしも不利なものではないと考えます。むしろ、品質の理由をきちんと伝えられる企業ほど評価されやすくなっていると言えるでしょう。ブランド名だけで選ばれる時代よりも、納得できる理由で選ばれる時代のほうが、本来の強みが伝わりやすくなる場面もあるからです。
ゴールというより出発点に近いのかもしれません。特別な存在として扱われることを前提にするのではなく、比較の中で選ばれるための説明を整えていく。その視点が、今の市場には合っているように感じています。
なぜ日本企業の強みは伝わらないのか
タイ市場でユーザーの受け止め方を見ていると、日本企業の製品やサービス自体の評価が低いと感じる場面は多くありません。品質や信頼性の印象は、今でも比較的好印象のままです。それでも、期待ほど成果につながらないケースがあるのも事実です。
こうした状況を見ると、問題は強みの有無というより、その伝わり方にある場合が多いように感じます。
日本では当たり前とされている品質基準や管理体制も、背景を知らない相手にとっては比較材料になりません。「高品質」とだけ示されても、何がどう違うのかが見えないため、他製品と同列に並んでしまいます。
また、日本では実績や企業規模が信頼につながることがありますが、海外では必ずしも同じようには受け取られません。知名度が前提にならない環境では、実績の量よりも「自分にどう役立つか」が判断軸になりやすいからです。
さらに、翻訳自体は正確でも、説明の順序や強調点が日本向けのままだと、読み手にとって重要な情報が伝わりにくくなることがあります。内容ではなく設計の違いが理解度に影響しているケースです。
こうして整理してみると、日本企業の強みが伝わりにくい理由は、価値そのものよりも価値の結び付け方にあるのかもしれません。実際、強みを現地の判断基準に合わせて整理し直しただけで反応が変わる例も見られます。
タイ市場で成功している日本企業に共通する4つの特徴
タイ市場で継続的に成果を出している企業を見ていると、業種や規模が違っていても、いくつか共通する傾向があるように感じます。
特別な施策を行っているというより、判断の前提となる設計が整理されている企業が多い印象です。
JETROが実施した東南アジア消費者調査では、評価の高い日本ブランドでは「高品質」「耐久性がある」「機能性が高い」「細部までこだわっている」といった印象がストーリーとして認識されていることが示唆されています。
参考:JETRO「特集:現地消費者のサステナブル消費の実情」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2023/0304/08bb7e1ce1bca78d.html?utm_source=chatgpt.com
つまり、重要なのは日本ブランドの強みが“どう理解されるか”であり、成果を出している企業ほど、以下のような理解の流れを設計しているように見え受けられます。
① 品質の「理由」を示している
単に品質が高いと伝えるのではなく、なぜそう言えるのかを説明しています。品質管理や製造体制が理解できるほど、信頼はブランド名ではなく根拠に基づいて形成されます。実際、調査でも「日本メーカーなら生産地が海外でも信用できる」という声があり、信頼の源泉が仕組みにあることがうかがえます。
② 現地基準で価値を説明している
市場ごとに、製品が評価される判断基準は異なります。成果を出している企業ほど、自社の特長をそのまま提示するのではなく、現地で重視される評価軸に合わせて説明しています。
たとえば東南アジアでは、価格・品質・耐久性といった実用面が購買判断で重視される傾向があります。一方で近年はサステナビリティへの関心も高まりつつあり、環境配慮や製造背景への関心が見られるという調査結果もあります。
つまり判断基準は単一ではなく、複数の要素の組み合わせで決まっています。
成果を出している企業ほど、自社の特長を抽象的なブランド価値ではなく、こうした現地の評価軸に結び付けて説明しています。
③ 比較できる材料を用意している
情報収集手段がSNS中心になっている市場では、複数候補の比較が前提になります。
違いが分からない製品は検討対象に残りにくいため、数値・仕様・検証結果など比較可能な情報を提示している企業ほど選択されやすくなります。
④ 現地の課題と接続している
単なる性能ではなく、その背景まで理解されたときに市場価値として成立します。成果を出している企業ほど、自社の特長を現地の課題や文脈に接続したストーリーとして提示しています。
こうして整理してみると、成功企業の共通点は特別な手法ではなく、理解の流れを設計している点にあるように見えます。
強みを増やしているのではなく、強みが伝わる順序を整えていると言ったほうが近いかもしれません。
日本品質を資産化する思考フレーム
タイ市場で成果につながっている企業を見ていると、日本製であることを前面に押し出しているというより、その意味が自然に伝わる形に整理されているケースが多いように感じます。日本品質という言葉そのものを強調しているというより、結果としてそれが伝わる構造になっている印象です。
整理の仕方には以下のような共通した段階が見えてきます。
信頼の根拠が伝わる段階
まず必要になるのは、品質の理由が分かることです。なぜ信頼できるのか、その裏付けとなる情報が示されている状態です。製造工程、検査体制、使用素材、管理基準などが具体的に見えるほど、評価の土台が生まれます。
例
「全製品を三段階検査」
→ 信頼できそうだと感じる状態
自分へのメリットが分かる段階
次に重要になるのが、その品質が自分にとってどんな利点になるのかが理解できることです。性能そのものではなく、「それによって何が変わるのか」が見える段階です。
例
「高温多湿環境でも故障しにくい」
→ 自分に関係あると分かる状態
選ぶ理由になる段階
そして最後に、その情報が選択理由として成立します。理由が理解できたとき、はじめて判断の決め手になります。
例
「修理回数が減るため長期コストが下がる」
→ 購入理由になる状態
現場でさまざまな企業の発信内容を見ていると、この流れの途中で止まっているケースも少なくありません。日本製という事実だけを伝えている状態や、根拠までは示しているものの顧客視点での意味までつながっていない状態などです。強み自体が不足しているわけではなく、伝達の段階が途中で終わっている印象を受けることがあります。
日本品質をうまく活かしている企業ほど、この段階を意識的に整理しているように見える場面が多いのも事実です。特別な施策というより、価値の順序を整える作業に近いのかもしれません。
参考:日本品質の考え方については、こちらの記事でも整理しています。
https://www.e-bird.biz/blog/thaimarket-japanese-quality/
タイ市場で起きている本質的変化
前述ではタイのユーザーの判断基準そのものが少しずつ変化していることを取り上げましたが、どのような変化が見られるのかを具体的に見ていきたいと思います。
まず背景の一つとして大きいのは、情報取得経路の変化です。
JETROの調査でも、ASEANの消費者は商品情報の収集先がソーシャルメディアに偏る傾向があると指摘されています。
複数のレビューや比較情報に日常的に触れる環境では、ブランド名そのものよりも、具体的な判断材料が重視されやすくなります。
もう一つ見逃せないのが、消費の価値基準の多様化です。
近年は東南アジアでもサステナブル消費への関心が高まりつつありますが、実際の購買では価格・品質・機能性といった実用要素が依然として重視されるという声が多く報告されています。
さらに、素材や包装、製造背景などの情報を確認したいというニーズが国・地域を超えて共通していることも指摘されています。
つまり現在の市場では、
「信頼されているか」より
「納得できるか」
が判断の分かれ目になりつつあるとも考えられます。
実務の中でも、同じ品質水準の製品が並んだ場合、差として見られるのは機能の優劣より、説明の透明性や用途との適合性だったというケースを目にすることがあります。ブランドの印象が入口になることはあっても、それだけで最終判断に至るとは限らない。そうした構造の変化が、いまの市場の特徴の一つなのかもしれません。
日本企業がいま最優先で取り組むべきこと
タイ市場でブランディングや広報に悩んでいるという相談を受けると、広告を増やすべきか、SNSを強化すべきか、サイトを改修すべきかといった施策の話から始まることが少なくありません。ただ実務の現場で状況を整理していくと、手段以前の段階に改善余地が残っているケースも多いように感じます。
特に見直しの余地が大きいのは、自社の強みがどの判断基準で評価されるのかという整理です。
企業側が強みだと考えている要素と、顧客が選ぶ際に見ているポイントが一致していなければ、発信量を増やしても成果にはつながりにくくなります。伝える量より先に、伝える軸を揃える必要があるように見えます。
そのため最初に取り組むべきなのは施策の追加というより、自社の価値の定義を整理することかもしれません。どの特長が選択理由になり得るのか、どの情報が判断材料として機能するのかを見直す段階です。この整理ができている企業ほど、その後の発信や営業活動が自然とかみ合っていく印象があります。
自社のUSPの見つけ方については以下の記事もご参照ください。
次に重要になるのが、顧客側の判断プロセスの理解です。
どのタイミングで比較が始まり、どの情報で候補が絞られ、どの理由で決定に至るのか。この流れを把握しないまま発信すると、本来届くはずの強みが検討の土俵に乗らないまま終わってしまうことがあります。逆に言えば、この順序が見えているだけでも、伝え方の設計は大きく変わります。
そしてもう一つ、差が出やすいと感じるのが「価値の翻訳」です。
ここでいう翻訳は言語ではなく意味の置き換えに近いものです。企業が伝えたい特長をそのまま提示するのではなく、顧客にとって理解しやすい判断軸に変換する作業です。この変換があるかどうかで、同じ内容でも受け止められ方が変わる場面は少なくありません。
こうして整理すると、優先順位はある程度共通しているようにも見えます。
強みの整理 → 判断基準の理解 → 価値の翻訳
この順序が整ってから施策を検討するほうが、結果として遠回りにならないケースが多いと考えられます。
もちろん企業ごとに状況は異なりますが、発信手段を増やすことと成果が比例しない場面があるのも事実です。そうしたときほど、外側ではなく内側の整理から始めるほうが、状況が動きやすくなるのかもしれません。
日本品質はブランドではない、戦略である
日本製であることは、今もなお大きな強みの一つだと感じます。ただ、その価値は持っているだけで発揮されるものではなく、どう伝えるかによって受け取られ方が変わってくるように見えます。
実際に成果につながっている企業を見ていると、日本品質そのものを前面に出しているというより、その意味が自然と伝わる形に整理されていることが多い印象があります。違いを強調するというより、理由が理解できる状態をつくっている。優れていると示すというより、比較したときに納得できる材料を用意している。そうした積み重ねが選択につながっているようにも感じられます。
日本品質は肩書きのように掲げるものというより、設計次第で活かし方が変わる資産に近いのかもしれません。同じ日本ブランドであっても、伝わり方の設計によって評価のされ方が変わる場面があるのを見ると、その可能性を感じることがあります。
すべての企業に当てはまるわけではありませんが、日本品質をどのように位置づけるかを見直すことが、次の一歩を考える手がかりになる場面もありそうです。
関連記事
-
タイで失敗しないためのWEBブランディングとは?現地で信頼と共感を得るための5つの視点
タイ市場では、製品の魅力に加え、企業の“姿勢”や“ストーリー”への共感がブランド選定の鍵となっています。タイでWEBブランディングを任された初心者の方に向けて、信頼と共感を得るための5つの視点をわかりやすく解説します。
2025.07.02 #デジタルマーケティング -
タイと日本のクロスカルチャーをデザインの視点から考える
タイと日本は、それぞれが異なる歴史の影響を受けて進化した文化や価値観を持つ国々であり、それぞれに独自性があります。タイと日本の間でよりボーダレスな価値の共有促進を考えるために、タイと日本とのクロスカルチャーをデザインの視点から考えてみたいと思います。
2023.10.06 #デザイン・UI/UX -
【お客様インタビュー:SUIT SELECT THAILAND 様】タイと日本におけるスーツ観の違いとは?
タイに進出して以来、10年以上に渡ってタイ市場で活躍されているSUIT SELECT THAILAND 様に、タイと日本のスーツ観の違いについてお話を伺いました。
2024.06.13 #デザイン・UI/UX -
WEBサイト制作に入る前に準備しておきたいこと ― 初めてWEBサイト制作を担当する方のためのガイド
WEB制作をスムーズに進めたい方へ。始める前に知っておきたい6つの準備ポイントを解説します。
2025.08.16 #WEBサイト制作#WEB・広報担当者のための基礎知識